新経絡治療(バランス鍼法)2 「皮内鍼の相殺作用」 第558号 日本の医道 1991年2月


「医道の日本」に掲載された原稿を記載することにしました。

新経絡治療(バランス鍼法)に興味を持たれた先生方より過去の原稿について問い合わせが増えたこともあり、参考資料になればと整理しました。鍼灸における臨床研究の参考になれば幸いです。


皮内鍼は刺激療法ではなく経脈の電気的エネルギーを矯正する。上下経脈一置鍼の法則


 2皮内鍼の相殺作用


「一本か二本で折角効果があった時、その結果も見ず数多く使用したため、かえって効果が薄れてしまうことがある。即ち、後の刺激が先の刺激を相殺する。これを<相殺作用>と言っている。」「経絡は知らなくてもよい、何でもよいから痛みのある中心部の皮内へ一ミリ位刺入して見て貰いたい。原因が簡単なる肩こりや腰痛なら一文間を出ずして効果が現れ、数十分内に鎮痛してしまうものである。」(赤羽)

 皮内鍼をする場合、経絡の存在をそれほど重視しなくても良い、と述べられているが、果たしてそうであろうか。我々はこの件に関し、幾つかの実験を行ってみた。そして、そこで解明された内容は経絡を完全に肯定しなければならない結論だったのである。

<実験3>
 それでは皮内鍼の相殺作用について述べてみる。症例は肩井穴、風池穴の痛みで、胆経脈の異常を通して実験した。
 表3の結果は胆経のみに限らず全ての経脈でも同じ結果であった。


表3 実験3 皮内鍼の相殺作用

(1)陽交穴に皮内鍼→ 肩井、風池部位の痛みに刺入 著効
(2)陽交穴に皮内鍼→ 肩井穴に更に皮内鍼刺入 すぐ痛み出す
(3)陽交穴に皮内鍼→ 胆経脈上の阿是穴に皮内鍼刺入 後で痛み出す
(4)陽交穴に皮内鍼→ 肩井穴に磁石を貼る すぐ痛み出す
(5)陽交穴に皮内鍼→ 他の経脈上に皮内鍼や磁石を使用 著効にかげり


表3の
(1)では陽交穴に皮内鍼を経脈の流れにそって鍼尖を痛みに向けて刺入した。結果は数秒も経たない内に鎮痛してしまった。
(2)は、(1)で鎮痛した後の実験で、さらにもう一本肩井穴へ皮内鍼を刺入してみた。すると、すぐに治療前の状態のように痛み出した。肩井穴の鍼を取ると、痛みは消え、(1)の状態に戻った。
(3)においては胆経上の支配領域上で経穴よりずらしたポイントに皮内鍼を刺入してみた。すると(2)のようにすぐに反応は出なかったが、暫く経つと痛みだし治療前の状態に戻った。
(4)については胆経脈以外の経脈に皮内鍼及び磁石を貼ってみたが、(1)で鎮痛していた肩井や風池部位の症状に変化は見られなかった。つまり、相殺作用が生じなかったわけである。
(5)では、陽交穴に皮内鍼をして鎮痛している(1)の状態に重ねて肩井穴に磁石を貼ってみた。そうすると、すぐに治療前の状態となり痛みが出てきたのである。そこで今貼った磁石をはがすと(1)の状態に戻った。


<実験4>

 そこで、磁石の位置を胆経上の支配領域内の数カ所に貼って変化を調べてみた。そして表4のような興味深い結果が出たのである。


(1)陽交穴→著効 痛みがあった肩井部位に磁石 すぐ痛み出す
(2)陽交穴→著効 陽交穴と肩井穴の間の経穴へ磁石 すぐ痛み出す
(3)陽交穴→著効 胆経上の阿是穴に磁石 後で痛み出す
(4)陽交穴→著効 陽交穴より足関節に近い所に磁石 後で痛み出す
 皮内鍼で著効となった経脈上に重ねて磁石を貼った場合、皮内鍼で鎮痛した効果は磁石によって相殺されてしまった。と言うことは皮内鍼が生体の電気的エネルギーに変化を与えて鎮痛させていたにもかかわらず、異なった磁場の出現により皮内鍼の効果が相殺したと言うことになる。このことは、皮内鍼の刺入領域が皮内と言っても、表皮と真皮の間に刺入した方が確実に効果を出せることと関係が深いように思われる。


 我々の治療実績では、皮内でも表皮と真皮内の間に皮内鍼の鍼尖が固定されている状態が、常に安定した治療効果が得られ、刺入部位が真皮内、及び皮下に至り皮膚表面が発赤する時は、皮内鍼本来の効果を期待できないことがあるからである。極端な言い方をすれば0.1ミリ表皮に鍼尖がくっついてさえいれば皮内鍼の効果を完全に満たすことが出来るわけで、単純に鍼治療を刺激療法であると解釈するには妥当しない皮内鍼の役割がここに解ってきたのである。


(3)皮内鍼は刺激療法ではなく、経脈の電気的エネルギーをアースし矯正する働きがある。


(図1)

皮内鍼施鍼における生体の電位変化(仮説)


        :+±+-±-±+-
        :±±-±+±+-±
        :++±+-±-±-

   外界   /   体内
損傷電位
潰瘍
外傷
炎症

生体に発生した器質的疾患、或いは、損傷組織の生体電位


        :±±±±±±±±±
   皮内鍼→ :±±±±±±±±±
 (皮内円皮鍼):±±±±±±±±±

   外界   /   体内

 

皮内鍼を表皮と真皮の間に施鍼することにより、電位が鍼尖の電極に固定され、損傷電位が正常電位に変換される。

活発に変化していた生体が正常に機能する状態に矯正される


 このように一本の皮内鍼で出た効果に対し、さらに、一本の皮内鍼の施鍼は、或いは、一個の磁石を貼るだけで、その効果に変化があったり、無かったりする、領域が存在すると言うことは重要な内容であり、特に磁石による相殺作用は組織解剖学的にされない経脈の存在が電気生理学の分野で証明可能であることを意味している。図1。胆経脈は胆経脈として支配領域を持ち、一定の役割を担い機能していると考えられる。それは、心経や脈管さえも包含してしまう存在として経絡を見つめ直さなければならぬほどの事実なのである。


 こうした実験により、同一経脈上の支配領域に皮内鍼を一本しか使用できないことが解明できた。更に、磁石でも皮内鍼と同じ結果が出たと言うことは、皮内鍼によって治療効果があるのは、生体の電気エネルギーが操作されるからではないかと考えざるを得なくなってきたのである。ここで我々は経絡が確かに存在していることを確認したのである。


(4)上下経脈一置鍼の法則

 では、皮内鍼の使用が一経脈に一本として考えた場合、手の6経脈と足の6経脈で十二経脈あり、それが左右にあるので、24経脈ある。さらに督脈、任脈、衝脈、帯脈を入れると、合計28本、皮内鍼を施鍼可能かと言うと、そんな単純なものではなく、経脈の走行、絡脈の走行を考慮することなく使用できず、経絡の支配領域としてある体表部の走行を考慮せず無視すると相殺作用が生じる等の自然科学的法則が存在していたのである。


 我々は経絡の気血が肺→大腸→胃→脾→心→小腸→膀胱→腎→心包→三焦→胆→肝→肺と巡っていることを霊枢の経脈編第10で習ってきた。こうした気血の流注は確かに存在しており、我々は皮内鍼の施鍼による効果と相殺作用の確認を通して流注の存在が理解され、次第に古典に説かれた黄帝内径の素問・霊枢と一致を見るに至るのである。


<流注1>図2

 大腸経は肺経の脈を受けて、示指橈側爪甲根部から始まり、上下の関係にある胃経へと直接に接続し、足の距骨上の衝陽穴より胃経と脾経とに分かれることになっている。そこで我々は、まず、大腸経脈上の疾患に皮内鍼を施鍼し、効果を確認した後に、胃経にも皮内鍼を施鍼してみた。暫く経過を観察していると、双方の経脈に緊張が生じだしたので、皮内鍼が大腸経と胃経に一本しか使用できないのではと考えた。相殺作用が生じたからである。


図2 流注1
偏歴穴

衝陽穴  大腸経――◎―――――→ ~――◎― ――→ 胃経
                             └―→肺経      └―→脾経

 


<流注2>(図3)

 脾経は胃経の脈を受けて、足の第一趾内側爪甲根部から始まり、上下の関係にある心経に直接接続し、心経は手首の通里穴より心経と小腸経とに分かれることになっている。ここでも、脾経脈上の疾患に皮内鍼を施鍼し、効果を確認した後で、心経にも皮内鍼を施鍼してみた。暫く経過を観察していると、双方の経脈に緊張が生じたので、皮内鍼が脾経と心経に一本しか使用できないことを知った。脾経に一本と心経に一本施鍼したら、相殺作用が生じたのである。


  図3 流注2
通里穴         公孫穴
心経←―――――◎―~  ←――――――◎―― 脾経
         胃経←――┘


 これと同じように上下で接続している小腸経と膀胱経に一本。腎経と心包経に一本。三焦経と胆経に一本。肝経と肺経に一本しか皮内鍼が使用出来なかったのである。


  ※上下経脈一置鍼の法則は経絡が存在していることを確認する為に行った一方法であることを理解して頂きたいと思います。何故なら臨床に於いて、上下経脈の虚実を確定していくと、必ず小腸経が虚証となっている時は膀胱経が実証となっています。腎経が虚証となっている時は心包経が実証となっており、実際の身体では上下経脈は相対的にどちらかが虚証でどちらかが実証となります。また皮内鍼が虚証領域にしか効果がないことを考えあわせると、上下経脈のどちらかに存在する虚証領域に一本しか皮内鍼を置鍼出来ないことになります。さらに氣の流れを受信して、皮内鍼を施鍼したときの氣の移動を観察してみると、経絡が循環して接続している関係か、全身に一個しか使用できないことが現在では解ってきています。
原則として皮内鍼は身体に一個が原則となります。身体へ二個以上の皮内鍼を置鍼すると時間の経過とともに相殺作用が発生します。
                (平成13年2月20日補足)


  <陰陽(臓腑)における絡脈を考慮した皮内鍼の相殺作用> 削除


<陰陽理論と上下経脈との関係>   


 黄帝内径、霊枢根結第五に「用鍼之要、在於知調陰興陽」、「鍼法の要は、陰陽を整える事を知るにある。」と記されている。鍼法に於いて陰とは臓の事を言い、陽とは腑の事を言う。また陰を裏と言い陽を表とも言う。つまり陰陽、臓腑、表裏とは同意語として使用されている。ここでの臓腑とは西洋医学にある臓腑と一致すると共に、それより、さらに多くの内容を包含している言葉として使用されている。


 そして、陰陽を鍼法においては、腑に関係が深い陽明、太陽、少陽と、臓に関係が深い厥陰、太陰、少陰とにわけ、経脈の特徴を区別している。こうした陰陽の側面より、前述の相殺作用を踏まえて説明すると以下のようになる。


 我々は流注を考慮した相殺作用において、陽経の陽明大腸経と陽明胃経の上下の関係にある二つの経脈に皮内鍼を一本しか施鍼出来ないことを相殺作用で知った。少陽三焦経と少陽胆経に一本。太陽小腸経と太陽膀胱経に一本となっている。それ故、陰経の太陰、少陰、厥陰の上下の関係も陽経と同じく太陰肺経と太陰脾経の二つの経脈に皮内鍼を一本しか使用出来ないのではと考えた。何故なら、霊枢に「太陰経の脈氣が絶えようとするときは………。陽明経の脈氣が絶えようとするときは………。」等と述べられているからである。このように太陰経、或いは、陽明経として、それぞれ独自の働きを持っているかのごとく分類できると言うことは、経脈の走行においても当然上下の脈気が交流してしかるべきと思われたからである。


 それ故、太陰同志、少陰同志、厥陰同志それぞれに皮内鍼を重ねて置鍼して相殺するかどうかを調べてみた。結果は接続していないというデーターが残った。接続していれば、皮内鍼を置鍼して有効が確認された後、同名経へ(太陰脾経と太陰肺経)重ねて皮内鍼を置鍼すれば瞬時に効果が相殺するのである。


手の陽明大腸経 ―――接続 ――― 足の陽明胃経
手の太陽小腸経 ―――接続 ――― 足の太陽膀胱経
手の少陽三焦経 ―――接続 ――― 足の少陽胆経
足の太陰脾経 ―――接続 ――― 手の少陰心経
足の少陰腎経 ―――接続 ――― 手の厥陰心包経
足の厥陰肝経 ―――接続 ――― 手の太陰肺経


足の太陰脾経―――― 接続無し――― 手の太陰肺経
足の少陰腎経―――― 接続無し――― 手の少陰心経
足の厥陰肝経―――― 接続無し――― 手の厥陰心包経

 


※まさに脈絡が無いとはこのことか!教科書において誤り在り。


天心治療院 近藤哲二