新経絡治療(バランス鍼法)1 「皮内鍼の刺入方向について」 第555号 医道の日本1990年


「医道の日本」に掲載された原稿を記載することにしました。

新経絡治療(バランス鍼法)に興味を持たれた先生方より過去の原稿について問い合わせが増えたこともあり、参考資料になればと整理しました。鍼灸における臨床研究の参考になれば幸いです。


新経絡治療(バランス鍼法)1 (皮内鍼の刺入方向について) (皮内鍼の遠隔治療)


はじめに

 

 

 

 皮内鍼とは、赤羽幸兵衛氏の発案で、皮内に鍼を刺入し、固定して行う鍼のことである。操作は簡単で、疾病によって生ずる最高圧点を捜し出し治療を施す。施鍼すると一穴で患者の訴えが治ることがあり、瞬時に鎮痛し、治効に目を見張るものがある。知るものぞ知る治効である。

 

 

 

 だか本法は昭和27年に考案され、追試を重ねられているにもかかわらず、未だ産声を上げたばかりで、個々の刺激が正確にどんな影響を与えているかが不明瞭であり、皮内鍼と経絡の関係、皮内鍼の数、刺入時間、皮内鍼の効力と限界、といった治効法則が明瞭にされていないのが現状となっている。

 

 

 

 だがこの皮内鍼の治効作用には法則性と再現性があり、一定の要件を満たせば、いつでも同じ程度の効果を期待出来ることが解ってきている。我々の研究では、この皮内鍼の治効理論の解明に力を入れており、研究が進むにつれ、皮膚破壊をして刺入する中国伝来の豪鍼の役割もある程度解りつつあり、東洋医学における経絡学説を完全肯定しなければならない事実を臨床の中に見いだしている。こうしたデーターは近い将来、電気生理学の領域で自然科学として経絡が証明されることを示唆している。そして有能な頭脳が経絡を基礎医学として注目し研究し出したら、現代医学はさらに急速に進歩するはずである。なぜなら経絡が気血を運行させ、身体を滋養し、生体の異常を反映し、侵入した病邪や鍼灸の刺激などを伝導する重要な役割を担っているからである。これから述べる内容は法則性と再現性のある治効法則についてである。

 

 

 

 今回はまず皮内鍼の刺入方向による効果の相違と皮内鍼の相殺作用について明らかにしていきたい。そのためには我々はまず証明に必要な経穴を特定した。

 

 

 

 {霊枢}に「経絡の微妙な現れは輸穴なしでは捕られるものではない」と述べられている。輸穴とは井穴、栄穴、兪穴、経穴、合穴の事で、肘関節から指先と、膝関節から指先までにある穴のことである。この輸穴にて病人の気血の虚実や病邪の盛衰の微妙な現れをつかむことができるとしている。それは、肘関節や膝関節より指先における経脈の支配領域が明瞭で区別しやすい事と、関節部位は常に使用しているがゆえに経脈における異常が反映しやすく診断の目安になることに由来する。

 

 

 

 こうした観点により、我々は皮内鍼の治療ポイントを肘関節と膝関節より末端を選び、さらに、絡脈を考慮し、手は陽経の絡脈より指先までの穴は取穴せず、足は陰経の絡脈より指先までの穴は取穴しなかった。

 

 

 

 三焦経を例にあげると、絡穴である外関穴より体幹部へは心包経に走行している流注と、絡穴である外関穴より本線である三焦経を走行している流注があり、この心包経と三焦経とが、絡穴である外関穴より指先にかけては、三焦経と心包経が吻合していると考えられたからである。それゆえ肝経では中都穴、腎経では復溜穴、胆経では陽交穴、三焦経では四トク穴と言う具合に取穴した。どの経脈であるかが明瞭な経穴を取穴する必要があったからである。

 

 

 

-皮内鍼の刺入方向

 

 

 

「皮内鍼は横紋に平行にするようにする。すなわち、皮膚の伸縮する方向に対して横に、しかも十字型に刺入する。何故かということはわからないがとにかく、その方がよいようである。」「ただ単に皮膚の伸縮方向というだけでなく、そこには、何物かが介在するのではないかと思われた。いずれにしても、皮膚の伸縮方向だけはよく見なければならない。しかし、方向に関係なしに行っても効くことがあるから一概にはいえないが。」(赤羽)

 

 

 

 確かに皮内鍼は皮膚表面に鍼を長時間刺入する関係上、横紋に平行に刺入することが、皮下に鍼が刺入してしまいやすい状態をなくし、治療効果を持続させることが出来るということがある。皮内鍼が皮内を通り過ぎて、皮下に鍼尖が届くと血液や漿液が出、皮膚面が発赤し、皮内鍼の効果は消える。とにもかくにも、皮内鍼が動作時にチクチクするのはいただけない。「関節の屈伸、筋、皮膚等の伸縮作用を阻害せぬよう、横に、すなわち、十字型に刺入するものである。」(赤羽)とした意味がここにある。

 

 

 

1ー皮内鍼の遠隔治療

 

 

 

 実際に使用した皮内鍼は鍼尖が深く刺入することを避け、角度の付きにくいリングの皮内鍼で二ミリのものを使用した。刺入部位は皮内でも真皮と表皮の間に鍼尖が届けばよしとした。実験(1)、(2)(3)の被験者は井穴部位の電気抵抗を測定をし、一経だけ抵抗値が低い人を選び、かつ痛みを伴っている経脈上の実験である。電気抵抗と皮内鍼に関しては次回新経絡治療Ⅱの皮内鍼の限界で述べる。また著効とほとんど鎮痛した状態を言い、有効とは比較したとき著効よりはスッキリしない状態を言い、何の変化も生じなかったとき無効とした。効果の確認は数秒あれば十分である。被験者は多数。

 

 

 

 さて、それでは皮内鍼の刺入時における鍼尖の方向によって治療効果が異なるかどうかを実験した結果を述べて行くとする。

 

 

 

<実験1>

 

 まず初めに圧痛部位と経脈の関係を考えて、圧痛部位より少し離れた圧痛部位と同一経脈上に治療ポイントを求め皮内鍼を試みた。さらに、圧痛部位と関係のない隣接する経脈上にも皮内鍼を試みてみた。そして以下のような結果を得た。いくつかの治療ポイントを求め、同じ方法で試みたが、実験1(表1)のようにいずれも同じ結果であった。

 

 

 

表1 実験1 遠隔治療における皮内鍼の刺入方向(矢印)

 

 

 

(1)  皮内鍼→圧痛       圧痛に向けて皮内鍼刺入    著効

 

(2)←皮内鍼 圧痛       圧痛と反対に向けて皮内鍼刺入       有効

 

(3)↓皮内鍼 圧痛       横紋に平行に皮内鍼刺入    有効

 

(4)  隣接する経脈上で(1)(2)(3)を試みた           無効

 

 

 

<実験結果>

 

 

 

(1)    まず、圧痛部位より離れた同一経脈上の経穴に皮内鍼の鍼尖を圧痛部位に向けて刺入した場合著効を得た。皮内鍼の遠隔治療である。

 

(2)    次に圧痛部位より離れた同一経脈上の経穴に、皮内鍼の鍼尖を圧痛部位とは反対方向に向けて刺入した場合、皮内鍼を圧痛部位に向けた時より、鎮痛効果が薄れてしまった。

 

(3)    さらに圧痛部位より離れた同一経脈上の経穴に皮内鍼の鍼尖を圧痛部位と十字に、つまり横紋に平行に刺した場合、(2)と同じ結果であった。

 

(4)    最後に圧痛部位と同一の支配領域でない隣接経脈上に(1)(2)(3)と同じ方法で皮内鍼を刺入した場合、全く無効であった。

 

 以上の実験で、皮内鍼の治療効果において、同一経脈上では遠隔治療が可能であることが解った。そして皮内鍼の刺入方向であるが、疾患部位と同一経脈であれば、疾患部位に向けて皮内鍼をしたほうが、疾患部位と反対に向けて皮内鍼を刺入するより、または横紋に平行に刺入するより、著効となる結果を得たのである。

 

 

 

 この実験により、経脈の体表部における支配領域の存在と、しんせんの方向による治効の相違を確認したことにより、皮内鍼はいったい何を変化させたのかというテーマを我々に与えてくれたのである。

 

 

 

 この遠隔治療の効果について少し述べておくが、病状が軽症の場合等はこの遠隔部より疾患部位に向けた皮内鍼のみで、鎮痛及び器質的、機能的疾患そのものも治ってしまう効果を期待できたのである。

 

 

 

 

 

 

 

<実験2>

 

 

 

(2)皮内鍼のポイント治療

 

 

 

 次に病巣が深部にあり臓腑が器質的疾患にかかっている場合、及び、圧痛部位が慢性化している場合の病巣部の経穴に対し、直接皮内鍼を試みてみた。そして、遠隔治療の効果と比べてみた。

 

 

 

<取穴例>

 

 

 

           胃の幽門部が器質的疾患にかかっている場合の圧痛部位のポイントは右胃経脈上の承満穴。

 

           胃の小彎部が器質的疾患にかかっている場合の圧痛部位のポイントは腎経脈上の通谷穴。

 

           大腸の上行結腸の上位部が器質的疾患にかかっている場合の圧痛ポイントは脾経脈上の腹哀穴。

 

         膵臓の膵尾部位が器質的疾患にかかっている場合の圧痛のポイントは左肝経脈上の期門穴と糖尿病等で反応が出る左胃経脈上の梁門穴。

 

           肝臓が器質的疾患にかかっている場合の圧痛ポイントは右脾経脈上の肝室穴。

 

 以上は病理学上の検査で医師により器質的疾患があると診断された時に異常があった経脈とその支配領域内に生じた圧痛部位であり経穴である。

 

 

 

<実験結果>

 

 

 

表2 実験2 病巣部経穴へ直接皮内鍼施鍼効果

 

 

 

(1)疾患部位の経穴       横紋に平行に皮内鍼施鍼   

 

著効

 

 

 

(2)疾患部位の経穴       経脈に沿って皮内鍼施鍼   

 

著効

 

 

 

(3)疾患部位の経穴       直下に皮内円皮鍼施鍼      

 

著効

 

 

 

(4)皮内鍼→圧痛(遠隔治療)    圧痛に向けて皮内鍼施鍼   

 

有効

 

 

 

 表2のように(1)(2)(3)の臓腑の疾患部位の経穴、及び慢性化した圧痛部位の経穴に、横紋に平行に皮内鍼、経脈の走行にたいし平行に皮内鍼、そして体表より直下に鍼尖を向けた皮内円皮鍼(皮内より上で鍼尖が止まる鍼)、の方法にての鎮痛効果を調べたが何れも差がなく著効であった。

 

 

 

 この治療において特筆すべきは、臓腑の疾患が体表に兆候を現している部位の経穴に皮内鍼及び皮内円皮鍼を施鍼した時、同一経脈上の支配領域の関連痛が消失したことである。

 

 また、(4)の遠隔治療では、臓腑に疾患があったり、慢性化した症状があるばあい、遠隔部よりの皮内鍼では完全に鎮痛させることが難しく、病巣部への直接の皮内鍼、皮内円皮鍼による鎮痛効果より劣ることが解った。

 

 

 

 以上の実験により、深部病巣部に近い体表上の圧痛点への直接の施鍼においては皮内鍼の刺入方向の違いによる効果に差異を認めなかった。そこで、我々は<実験1>において病巣部に向けて皮内鍼をした方が、そうでない方法より効果があったので、皮内円皮鍼なるものを作ってみた。これは技術的にも現在日本で作れる最短の針体を持つ円皮鍼であり、針体の長さが0.6ミリとなっている。その円皮鍼を使用時に、さらに、サジカルテープを七~八枚重ねたものを通し、皮膚に0.1ミリ程度刺入するようにして施鍼するのである。臓腑の疾病の場合、深部が病巣となるために、深部の病巣部へ鍼尖を向けて治療した方が皮内鍼より効果があがると期待してのことであった。結果は共に著効であったが予想通りの好結果となったのである。加えて言うなら、皮内円皮鍼の場合、体幹部であろうが関節部であろうが何処にでも施鍼出来る利点を備えていたのである。

 

東洋医学研究所 天心治療院

院長 近藤哲二